キス時々恋心

「そんなことしたってもう指名とかしないよ?私、彼氏はレンタルしないって決めたの」

素っ気ない態度で「さようなら」と付け加える。

これでいい。
最後くらいかっこいい大人としてビシッとキメてやらないと。

「そっか。そうだよな……」

雪次郎は寂しそうに肩を落とすも、納得して頷いてみせた。

眉を下げた姿がまんま置き去りにされた子犬のようで、このまま居たらせっかくの格好つけが水泡と帰してしまう。
初音は逃げるように雪次郎の横をすり抜けた。

「待って」

雪次郎が初音の細い手首を掴んだ。
彼の手からじんわりと熱が伝わる。

「じゃあ、レンタル関係なく俺と会ってよ。俺、もっと初音さんと会いたいし」
「……からかってるの?」
「からかってなんかないし」
「それなら、何でそんなこと言うのよ」

初音には彼が自分をからかっているとしか思えなかった。

若くて、絵が上手で、イケメンで、優しい。
そんな彼が冴えない年上の銀行員なんかともっと会いたいなんて信じられるわけなかった。
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