キス時々恋心
雪次郎は自分の正直な気持ちを隠さず伝える。
さっきまで逸らしていた目を初音はちゃんと合わせて彼を見た。
何か言わなきゃ――……
しかし、うまく言葉が見つからない。
澄み切った湖を覗いているような純粋な瞳に、初音は今にも吸い込まれてしまいそうな感覚をおぼえる。
そこには恐怖さえあった。
「じゃあ……レンタル彼氏のバイトやめられる?私、多分そこまで心広くないし、大人の付き合いってそういうのちょっと……ってところあるし」
初音の言葉に雪次郎はこの日初めて口を閉ざした。
彼が悩んでいるのがすぐに分かった。
さっきまで力強く掴んでいた手が徐々に緩んでいく。
大学生の恋愛なんてこんなもんだ。
レンタル彼氏がどれだけ稼げるバイトなのかは知らないが、月額のお小遣いを諦めてまで年上女のいいなりになどなるはずがない。
「無理になんて言わない」
初音は冷ややかにそう言い放って踵を返した。