キス時々恋心
取り残された初音と遙の間になんとも言えない重たい空気が立ちこめる。
雪次郎はすぐに戻ってくると言ったけれど、初音はこの空気の中に居続けられるほど鋼のメンタルではない。
ここは出直そう。
彼には後で連絡を入れればいい。
「彼も忙しいみたいだし、今日のところはこれで……」
初音は荷物をまとめて席を立って目の前にいる遥に向かって挨拶をすると、逃げるようにその場から離れようとした。
「……ちょっと待ってよ」
遙はそれを許すまいと呼び止める。
初音はすぐに足を止めて振り返った。
遙から醸し出されるただならぬ空気に気持ちの萎縮が止まない。
「何……かな?」
それを悟られまいと平常心を装いながら問いかける。
「ユキ君にレンタル彼氏のバイトを辞めさせたって本当なんですか?」
遙は無遠慮にズバリと尋ねてきた。
目の前の年上の女に対して一歩も引くことなく、敵意むき出しの顔をして。
「……そうだね」
初音はコクリと小さく首を縦に振る。
これが事実だ。