キス時々恋心

高校生の頃、告白を受けた時にはこんな想いは正直無かった。
家を離れて大学で勉強するという目標があったのも理由の一つだが、彼とは小さい頃からそれなりに一緒の時間を過ごしてきたのに。

社会人になって再会して、あの頃と比べたらほんの僅かな時間を共にしただけで気持ちが揺らいだ。揺れて、揺れて、うねりに(はま)って、彼の魅力にどんどん浸食されていく。

そんな自分が怖くて、他の誰にもこんな想いをさせたくなくてあんな無責任な事を言ってしまった。
大人として恥ずかしい。

だから、目の前の彼女にはそんな格好悪い姿を(さら)せないと思った。

「でも、決めたのはユキ本人だし……」

初音が言葉を口にした瞬間、冷たい水飛沫が顔面をめがけて放たれた。
飛んできたのはさっきまで口にしていたグラスの水。
遙の手には空になったグラスだけが握られていた。

「ユキ君のこと何も知らないくせに……!」

彼女のヒステリックな声に、食堂にいた数少の学生たちがこちらを見ている。
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