キス時々恋心
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遼と会った後、初音はタクシーで自宅アパートまで戻った。
部屋に入ると電気も付けず、上着も脱がないままで力なくソファーに倒れ込んだ。
『いい年齢して嫉妬とか……恥ずかしくないんですか?』
『今は多分、他のバイトを色々掛け持ちしてるんじゃないかな。彼、学生だから大学にも行かないとだし、お母さんの治療費とかけっこう大変だって――…』
遙と遼の言葉が頭から離れない。
考えれば考えるほど、自分が心の狭い最低な女だと思い知らされていくようでたまらなかた。
それでも、彼を好きだという気持ちはやめられない。
気持ちと現実がどんどん絡まっていく。
絡まっていく糸の解き方を初音は知らない。
苦しくてどんどん彼に溺れていく。
怖い……。
でも、手放せられない。
誰か助けて――…
そんな濃い靄の中から“現在”へと引き上げるように鳴り響く着信音。
画面には“宮川 雪次郎”の文字。
こんな時に連絡が来るなんて……
そう思いながらも、初音は通話ボタンを押した。