キス時々恋心
4. キスと恋心
クリスマス当日。
こんな時に限って仕事が立て込み、雪次郎と会う約束の時間より随分と遅くなってしまった。
初音はスマホを取り出し、雪次郎が送ってきた構内図を確認する。
花菱美大 三号棟 地下の一番奥にあるアトリエ部屋。
夕方になったその場所は学生が活動している気配がまるで無く、静寂に満ち、コツコツというヒールの足音だけが響き渡った。
一番奥の教室だけ明かりが灯っている。
あそこにユキがいる……
そう思うと、ドキドキと心臓が脈打って、ひょっとすると呼吸が止まってしまうかもしれないとさえ感じた。
初音はアトリエの扉をソッと開く。
シーンと静まり返った空間がそこにはあった。
教室の中央でイーゼルスタンドに立てかけられたキャンバスと向き合う雪次郎がいる。
キャンバスは未だ何も描かれていない真っ白なまま。
「ユキ……」
初音は遠慮気味に声を掛ける。
雪次郎はようやく彼女の存在に気付いた。
「遅くなっちゃってごめんなさい。仕事でちょっとトラブっちゃって……」
「仕事なら仕方ないよ」
雪次郎は筆を置いてそう答えた。