キス時々恋心

触れるだけのキスだった。
とにかく、彼に言葉の続きを言わせたくなかったから。
唇を離して、閉じていた瞼をスーッと開く。

目の前には驚愕(きょうがく)の表情を浮かべた雪次郎がいた。
年下なのにいつもどこか余裕のある印象だった彼。
しかし、今夜は違った。

まったく初めての彼を見た。
それ故に、初音は自分がどれだけ大胆な行動を起こしてしまったのかを今更になって思い知らされる。
初音の顔はみるみるうちに熱くなり、紅潮していった。

互いにどんな言葉をかけたらいいのか分からない。見つめ合うこと三秒間。
雪次郎の顔を見れば見るほど、初音の中で彼の存在が大きくなっていくのを感じた。

「……もう会わないなんて……言わないでよ……」

気付けば瞳から涙が一粒、また一粒と零れて床を濡らしていく。
雪次郎の大きな手が初音の頬に触れる。
割れ物を扱う時のように優しく。
そして、今度は雪次郎の方からキスをした。

「ごめん。もう言わない……」

一度、唇を離して雪次郎は言う。
零れる涙を指の腹で丁寧に拭き、再び唇を合わせた。
今度は深く深く溶けてしまいそうな口付け。


この恋に溺れてしまう――…


初音は心からそう感じた。
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