キス時々恋心
「遼さんからね、ユキはレンタル彼氏のバイトを辞めたって聞いた。お母さんの事とかも色々大変だって。
その所為で他のバイトに追われて、絵に集中出来なくなってるっていう事も……遼さんからじゃないけど教えてもらった」
「それって遙ちゃんだろ……。俺が居なかった間にそういう話になった?」
雪次郎の口から“遙”という名前を聞いて、初音の心臓はドキンと大きく脈打った。
彼女のことは初音にとってそれくらい忘れられない存在だった。
「遙ちゃ――…彼女もあの時はやり過ぎたってきっと思ってるはずだから……」
雪次郎はクラスメートの事を庇う。
彼にとっては大事な友人の一人だから当たり前のことだ。
本当に彼は優しい。
「分かってるよ。あの時は私が悪かったからいいの。それでね……私が言うなって感じなんだけど……。ユキ、今からでもレンタル彼氏のバイトに戻って?」
「えっ……でも……」
さすがの雪次郎もこれには動揺を隠せない風だ。
自分が言っていることがどれだけおかしいことか初音自身もよく分かっている。
それでも、これが雪次郎にとって一番なんだと知ったから。