キス時々恋心
Epilogue
季節は巡って春がくる。
初音は雪次郎の母親が入院している病院へお見舞いに訪れた。
小さい頃にはお世話になったし、何より大事な人のお母さんだから。
彼女は思ったよりも元気そうで、初音と会えたことをとても喜んでくれた。
思い出話に花が咲く。
近所で生活していた頃の何気ない日常や地域行事、近況なども話した。
まるで、あの頃にタイムスリップしたようで、初音も大いに楽しい時間を過ごした。
そんな有意義な時間を過ごした後、初音は綺麗な桜並木を見上げながら病院の敷地内を後にする。
今度、ユキとお弁当持って来ようかな――…
最愛の人の顔を思い浮かべると、急に彼が恋しくなった。
初音の歩みは自宅の方面とは正反対の市街地へと向かう。
向かった先は、花菱美大が主催している展示会の会場だった。
この場所にはユキが描いた絵が展示されている。
一目でいいから彼の作品をこの目で見てみたい。初音はずっとそう思っていた。