キス時々恋心
諦めて帰ろう。
そう思った矢先、大きなエンジン音を響かせながら黒いバイクが一台ロータリーに入ってくる。
待ち合わせをしている彼があんな海辺でも走っていそうなバイクでやってくるはずない。
自分には関係ないと踵を返す。
「……待って!待って!」
去りゆく背中に若い男性が声を掛けてきた。
初音が振り返ると、そこにはフルフェイスのヘルメットをかぶってバイクにまたがる男性がいた。
「――……さんでしょ……」
フルフェイスのヘルメットで声がこもって、言っていることがよく聞こえない。
「え……?」
初音が聞き返すと、男性はかぶっていたヘルメットを脱いだ。
軽く頭を振ると彼の茶髪の髪がユラユラと風になびく。
フルフェイスの中から覗いたのは目を見張るほどの美青年だった。
彼はヘルメットをバイクに掛けて、初音の方へと歩み寄る。