キス時々恋心
フロアの奥にある黒いカーテンで仕切られた狭いスペース。
恐る恐るカーテンの中へ入った。
入ってはいけないところだといけないと思って。
真っ黒いカーテンで覆われた不気味な雰囲気から一変、中に入ると壁一面に色んな色で彩られた絵画が初音の目に留まった。
作品の目の前には雪次郎がいる。
これは彼が描いた抽象画だった。
傍らに備え置かれた作品の解説を読むと、タイトルは“恋心”と書かれている。
愛おしさの桃色、悲しみのブルー、幸せの黄色、喜びのオレンジ、嫉妬の黒、安心の緑、興奮の赤
それらが全部溶け込んで、注ぎ込まれてくるように感じた。
初音は雪次郎と同じ気持ちを持っている。
そう思うと自然と涙が溢れた。
あの頃は気付きもしなかった。
“二度と会う事は無い”と感じた本当の意味に。
初音に恋心を抱かせる相手は宮川 雪次郎ただ一人。
彼以外“二度と会う事はない”のだ。
初音は雪次郎の背中にそっと唇を這わせる。
彼の恋心を今一度確認するかのように。
「ユキ、私はあなたが好きよ」
自分の中の恋心をキスで確認するかのように。
fin.