キス時々恋心

「レンタル彼氏のお客さんでしょ?」

突然現れた美青年は周囲に対する気遣いゼロだ。
初音は血相を変えて彼に詰め寄り「声が大きい……!」とたしなめる。
そして、辺りを気にしてキョロキョロと視線を泳がせた。

初音の忠告が効いたのか、男性は軽めな口をキュッと引き結んで彼女の顔をジッと見つめる。
端正な顔立ちだけあって、黙っていると迫力があった。

「な、何よ……?」

言い知れぬ雰囲気に気圧されて、初音はコツッとヒールを鳴らして半歩後ろへ下がった。

「もしかしなくても、初音さん?」

男性は変わらず初音の顔をうかがいながら問いかけた。
突如、自分の本名を告げられて初音の心臓はドキンと脈打つ。
レンタル彼氏の登録の際、初音は登録名として“ハツ”とだけ名乗っていた。
初めての利用で本名を告げるのは抵抗があったから。
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