夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
差し伸べられた手を取れず、かわすようにして車から降りる。行き場を失った新さんの手のひらは、なんだか寂しそう。
意地悪をしている気分になって罪悪感が芽生えたけれど、どうしてだか素直になれない。
「あ」
上着のポケットからスマホをだした瞬間、手が滑って地面へ。拾おうとすると、ちょうど同じく屈んだ新さんと指先が触れて思わず手を引っ込める。
これくらいで動揺するなんて、私ったら態度にですぎているよね。
「すみません」
「いや」
そのとき、偶然にもタイミングよくスマホが震えた。どうやら電話のようで画面には『進』の文字。
「ごめんなさい」
そう言いスマホをさっと拾い上げると画面をタップして電話にでた。
「もしもし」
「あ、桃子?」
「どうしたの? 平日の昼間にかけてくるなんて珍しいね」
とっさに新さんに背中を向けたけれど、振り返らなくてもわかるほどの鋭い視線が突き刺さった。勘違いかもしれない。でも明らかに不機嫌そうだ。それはまるで嫉妬しているかのように。
いやいや、あるわけがないよね。私の思い過ごしだよ。
「今日退院だって言ってただろ? 無事に帰れた?」
「うん! わざわざありがとう」