夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
エピローグ
「お願いします」
一カ月後、しっかりとお互いの欄に記入した婚姻届を持って役所を訪れた。緊張交じりの声が重なり、ふたり同時に窓口にそれを提出する。
淡々とした役所の職員は淡々とそれを受け取り、書類に目を通す。
「たしかに受理いたしました。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
晴れて本物の夫婦になった私たち。きっとこれからもたくさんの壁が待ち受けているだろう。それも新さんとなら乗り越えていける。
今ならそう思える。
「うれしそうだな」
「はい! ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そう言って微笑む新さんの横顔にうっとりしながら弾む足取りで役所をでると、初夏の風が吹いて髪を揺らす。
「このあとはどうしますか?」
「桃子のだし巻き卵が食べたい」
「だし巻き卵ですか」
そのワードにこの前初めて聞かされたエピソードが蘇った。新さんとはなんと、私が大学生のときに父の店で出会っていたらしい。
覚えていない私に少々ご不満な様子だったが、そんなに前から私を知っていたという事実に信じられない気持ちでいっぱいになった。