夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
「雪名さん、突然すみません。驚いたでしょう?」
「い、いえ、はい」
院長を前に緊張してしまい、パニックになる。予想もしていなかった展開に頭はパンク寸前だ。それでもなんとかひと通りの紹介が終わり、席に着こうとしたときだった。
「桃子さん、僕とふたりで個室でお話しませんか?」
どこの誰だろうというほどの爽やかな笑みを浮かべながらの紳士的な対応。なんとなくいつもの海堂先生ではない気がして、背筋がぞわわと粟だった。
「そうね、そうよね。桃子、ぜひふたりで個室でお話なさい。私たちがいては気を遣うだろうしね」
「せ、節子叔母さん」
「ほらほら、早くしなさい」
背中を押され、私たちは向かい合って座敷に座る形になった。完全個室のため、父や叔母たちの干渉がないのが幸いだ。
「どういうことですか?」
「どういう、とは?」
「なぜ海堂先生がここにいるのかを聞いてます」
海堂先生にさっきまでの微笑みはない。個室に入るなり、きっちり締めたネクタイを窮屈そうに片手でゆるめて、深い息を吐いた。
白衣ではなく見慣れないスーツ姿のせいか、いつも以上に緊張する。どこに視線をやればいいかわからず、洗練された上質そうなストライプの柄をじっと凝視した。
「父に言われたんだ、そろそろ将来を考えろと」