夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜

人前式は親族のみで、披露宴は親族と親しい友人たち数人を招待した。お互いにそこまで盛大にやるつもりはなく、式までに時間がなかったこともあってこじんまりとしたものになった。結婚式はあくまでも親へ向けてのもの。

入場しながらひとつひとつのテーブルを回る。そこまで多くはないので、すぐに終わりそうだ。

「桃子、おめでとう」

「お幸せに」

友人にお祝いの言葉をもらった。みんな小さい頃から仲のいい親友たちで、私の幸せを心から喜んでくれている。だからこそ複雑で、まぶしい笑顔を向けられると目をそらしてしまいたくなった。

「ありがとう、みんな」

これが愛のあふれる本物の結婚式ならどれだけよかったか。

(すすむ)! 今日はありがとう」

「おめでとう、桃子」

生まれたときからの幼なじみの進は甘めのベビーフェイスを崩してかわいく笑った。目を輝かせてまるでチワワのよう。

進はスーツを着てたら男っぽくて色気があるように見えるけれど、普段の彼はカッコいいというよりもかわいいという言葉がピッタリ。だから異性として意識したことは一度もない。

一緒に買い物に行くと私に合う物を私よりも真剣に選んでくれたり、スイーツブッフェに付き合ってくれたりする女友達のような幼なじみ。

海堂(かいどう)さん、桃子をよろしくお願いします」

「進……」

ペコリと頭を下げる進を見て胸が痛んだ。

進は私の結婚を父の次に喜んでくれたのに、そんな進をだましているのではないかと気分が沈む。

「ええ、任せてください」

海堂(あらた)さんはさり気なく私の腰に手を添え、目の前の進に向かってニコリと微笑んだ。

「桃子は僕が一生かけて幸せにしますから」

なんのためらいもなくそんなセリフを吐く彼の横顔を見上げると、真剣な瞳がこちらを向いた。力強い眼差しに鼓動が跳ねる。

建前で言ってるだけなのだから真に受けちゃダメ。

自分にそう言い聞かせて彼から目をそらし遠くを見つめる。

ああ、なんだか胃が痛くなってきた。

帯が苦しくて食事もまともにできないので、さっきから水分だけしか口にしていない。

それでも空腹を感じないのは緊張のせいだろう。

「おい、大丈夫か」

「え? あ、はい」

「ボーッとしすぎだ」

「すみません、緊張しちゃって」

手のひらで胃のあたりをさするとフッと笑われた。

「腹が減ったのか?」

「ちがいますよ」

「あとで思う存分食わせてやるから今は我慢しろ」

「だから、ちがいますって」

私の大食いキャラはしっかりと認知されているようだ。そんなふうに思われているなんて、ものすごく恥ずかしい。

けれどその一方で、どうしてこうなったのかと自分でもふと疑問に思ったりしている。

もともと恋人でもなければ、友人でもない、ただの顔見知り程度だった私たちが、今日のこの日を迎えたというのがまだ信じられない。

ふと原因となる二カ月前の記憶が頭に浮かんだ。

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