夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
眉間にはシワが寄せられ次第に深くなっていく。電車がカーブを通過した瞬間、男性は左胸を押さえながらその場に崩れ落ちた。
「しっかりしてください!」
男性の体を支えるように跪くも、力が抜けきっているため重くてひとりでは支えきれない。床の上にズルズルと倒れ込み、やがて意識を失ってしまった。
「大丈夫ですか!?」
肩を叩くが反応はなく、呼吸も徐々に浅くゆっくりになる。さらには唇が紫色で血の気が引いていくよう。脈に触れてみるが抹消では触知できず、ヒヤッとさせられた。
これはまずい。
でも、どうすれば?
「なんかヤバくないか?」
「あの人、大丈夫?」
「呼吸してないよな?」
「どいて」
車内に動揺が広がる中、人の間を縫うようにしてひとりの男性がやってきた。
目鼻立ちのキリッとした爽やか系の整った容姿。一瞬ドキッとしたのは、その人物がよく見知った人だったから。
倒れた男性のそばに跪くと慣れた手つきで頸部に触れる。すでに呼吸がないのは誰の目にも明らかだ。
「おい、救急車だ」
視線を感じて顔を上げると鋭い眼光でこちらを見据える力強い瞳。目が合った瞬間私に言っているのだとわかりヒヤッとした。
「急げ」
「あ、はい!」
バッグから慌ててスマホを取り出し電話をかける。その手は震えて画面をうまくタップできない。こんな場面には慣れているはずなのに、思いがけない場所で起こると動揺するらしい。
だけど一刻を争う事態。しっかりしなくては。
「それと駅員に次の駅でAEDを準備して待機していてほしいと伝えてくれ」
テキパキと冷静沈着に指示を出し的確な処置を施す姿に、さすがだなと感心する。
彼は海堂新、三十歳。海堂救命救急病院で昼夜問わず多くの患者の命を救っている有名な外科医だ。
海堂先生は胸骨を目視しながら狙いを定めた位置に手のひらを当てて心臓マッサージを始めた。その横顔は目を見張るほど真剣。