夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
「あ、新、さん……」
「なんだ?」
表情ひとつ変えず澄まし顔を向けられる。
「あ、えっと、呼んでみただけ、です」
「そうか。これからはそう呼べ。敬語はいらないといっても、すぐには直せないだろうから徐々にでいい」
「わかりました」
当分無理そうだけど努力はしよう。
「桃子」
腕が伸びてきて頬にふわっと手が添えられた。身体が硬直したように動かなくなり身動きが取れない。どうやら私は彼が「桃子」と呼ぶその甘い声の響きが嫌いではない、らしい。それどころか心臓が飛び跳ね、落ち着かなくて困る。
こんなふうに優しく触れられたら、誰だって恋に落ちると思う。って、私はまたなにを流されそうに……。
「あ、あの」
タイミングよくテーブルの上でスマホが振動した。私のものではなく、新さんのものだ。
「悪い」
彼は眉を下げながら私に申し訳なさそうに言い、画面を凝視する。そしてわずかに眉間にシワを寄せた。
ちらっと見えた画面には『木下 愛莉』という名前。
木下先生……?
新さんの同期で医学部時代からの旧友だと聞いたことがある。本人からではなく、清山さんから。海堂救命救急病院の立派な産科医で、清楚で控えめな印象とは裏腹に、気が強くてハキハキした性格をしているらしい。
披露宴にはきていなかったけれど、こうして密に連絡を取り合うほど仲がいいということなのかな。
新さんの手が離れて熱が引いた自分の頬を触りながら、電話に出る新さんの背中を見つめる。