夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
「除細動準備してください」
「挿管するから誰か手ぇかして」
「クロスマッチ採血の結果が出たら、マップ発注して全開で輸血だ! 急げ!」
「はい!」
今日も救命は慌ただしい。誰もが皆、手を休めることなく患者の命と向き合っている。そんな現場に入るのは緊張するし、気が引けるけれど。
バタバタと人が行き来する中、黒いスクラブ姿の新さんを見つけた。スクラブの背中には海堂救命救急病院を英文字にしたものと、個人の名前がローマ字で表記されている。
パソコンと向き合っている彼の後ろからそっと近寄った。
「海堂先生、先ほどの患者さんですが薬品名の入力をお願いします」
「あ、悪い。抜けてたのか」
新さんは私をチラ見したあと、瞬時にパソコンを触ってさらりと入力を済ませた。昨日のような気の抜けた顔ではなく、仕事モードでピリピリとした雰囲気が漂っている。
「これで大丈夫だろ。他に抜けは?」
「他は大丈夫でした。ありがとうございます。それでは失礼します」
「ちょっと待った」
とっさに腕をつかまれて思わず硬直する。
「なんでしょう?」
「今夜当直になったから、帰れなくなった」
誰が聞いているかもわからないのに、職場でしれっと言うなんて。
ひとりあたふたしてキョロキョロと周りに目をやる。でも誰もこちらを見ている人はいなかった。