夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
ホッと胸を撫で下ろし、短く息を吐く。これから毎日ビクビクしなきゃならないのか。それならいっそ、全部打ち明けてしまった方が楽なのでは。
「海堂くん」
わかりました、そう口にしようとしたとき背後から透き通るようなきれいな声がした。薄ピンク色のスクラブの上に白衣をまとった細身の女性。木下先生だ。
「妊婦の患者はどこ?」
「ああ、こっちだ。朝運ばれてきて、意識不明で、いつ目覚めるかわからない。臨月らしいんだが、出産をどうするか迷っていて」
「カイザーしかないわね。意識がないと、母体にもかなりの危険が及ぶわ。とりあえず診察するから」
「頼む」
医師同士の会話に入っていけるわけもなく、私はその場を離れようとした。
「あら、あなたが例の」
木下先生が私を見て意味深に微笑んだ。力強い意志が宿ったその瞳。すべてのパーツが整っていて、とても美人。フェロモンというか、色気というか、とにかくすごい。
「雪名さんだったかしら」
「あ、えっと、はい。雪名桃子です」
「そう。あなたも大変ね、この人が相手だと」
私はすべてを知っているとでも言いたそうな上から目線の口調だった。いや、私の勘違いかもしれないけれど、それでもなんらかの悪意がそこには感じられた。