夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜

「おはようございます! 遅れてすみません!」

「雪名さん、おはよう」

ベテランクラークの清山(きよやま)さんは四十代の気のいい女性で、私がなにもできない新人の頃からずっと指導してくれている。わからないところは聞けば的確に教えてくれるし、仕事も迅速丁寧。

「大丈夫よ、今日はそんなに立て込んでないから」

パソコン画面に向かいながらふわりと優しい笑顔を見せてくれる清山さん。

「これで急患が多かったらゾッとするけどね」

「そうですよね、気をつけます」

「冗談よ。それにしても大変だったわね」

遅刻は免れなくなったので電話で状況は伝えてあった。快く許してくれてその上優しい言葉までかけてもらえるなんて。

「ビックリしました、まさか電車の中で人が倒れるなんて」

「海堂先生が乗り合わせていてよかったわ。それにしても……電車の中でまで災難に巻き込まれるなんて、あの人が急変を呼び寄せているんじゃないかしら」

「それはありえますね。海堂先生がいるところに、急病人ありみたいな」

さすがは引きが強いというかそれが海堂先生の宿命であるかのよう。

海堂救命救急病院の医事課、私は救急外来のクラークとして働いている。

「でも本当によかったわ」

さっきから何度もそう繰り返す清山さんに頷いてみせる。

海堂先生がいなかったらどうなっていたか。

そういえばさっきの人はどうなっただろう。ここへ搬送されていてもおかしくはない。

海堂先生が処置しているんだもの、きっと助かっているよね?

「雪名さん、お昼行けそう?」

「すみません、先に行っててください」

「そう? じゃあ、いつものところにいるわね」

ランチバッグを手に、そう言い残して出て行く清山さん。

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