夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
その店はマンションの最寄りの駅の飲食店が建ち並ぶ場所から離れたところにあった。和を基調にした店内はとても静かで上品。雰囲気だけで一流の店だとうかがい知れた。
天ぷらメニューはすべておまかせで、なにが出てくるかわからないのがこれまた面白い。
「アルコールでもどうだ」
「いえ、私は遠慮しておきます」
「そうか、なら俺も」
「遠慮せずに飲んでください」
そう言ったが新さんはひとりで飲んでもつまらないと言い、頑なに拒否した。普段なら私もアルコールを飲むところだけれど、今日は胃の調子がやはり芳しくないので無理は禁物。
「顔色が悪いな。体調が悪いのか?」
「大丈夫です」
「無理はするな。遠慮なく言えばいい」
「本当になんでもないです。ただ少し胃が痛いだけなので。とは言っても、お腹は空いているので天ぷらは食べれます」
ガッツポーズを作ってみせると、新さんはなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
「ずっと無理してたのか?」
「やだ、ちがいますよ」
いろいろあったけれど今日はとても楽しかったから、そんなふうに思ってほしくない。
「なにかあったらすぐに言えよ」
ぶっきらぼうな言葉の中に感じる温もり。感情がわかりにくいけれど、言葉の端々からは優しさが伝わってくる。