どうも、弟です。
一言だ。
この一言を口に出すまで、こんなに時間がかかってしまった。
この一言を口に出さないように出さないようにする代わりに、秋に対する嫌な感情で蓋をしていたんだ。
本当はわかってた。
秋がいいお兄ちゃんであればあるほど、素直になれないバカな弟になってた。
素直になることよりも、とても簡単で楽で。
それでも苦しくなったときはこうして秋を悪者に仕立て上げてまた楽になる。
そうしてらせん階段みたいに積み上げられた感情を、たった一言が簡単に崩れさせていった。
「くるしい……本当は、くるしい」
崩れ落ちていった先で、それを全部拾って受け止めてくれる人がいる。
指先からだんだん冷えていく体は、いつの間にか目の前の人に包まれていた。
「何もできない、迷惑ばかりかけてる俺を見下してる秋が嫌いだ……なんでもできて、誰からでも好かれて、父さんも母さんも、みんなみんな秋のことが好きで……っ、そうやって、俺をまた…見下して……」
「雪……」
崩れ落ちていくのは、言葉だけなんかじゃなくて。
「雪、ずっとそんなふうに思ってたんだな」
「……」
秋の腕の中で、こくんとうなずく。