どうも、弟です。

それでも今は、こうして私という存在を認識してくれていて、しかもそんな私を探してくれていた。

……こんなの、嬉しいって思っちゃうよ。


「ううん、一花ちゃんが悪い訳じゃ無いじゃん」

「……」

「あ、それとも俺のこと避けてたりした?」


ばつの悪そうに下を向く。

秋くんは、いたずらっこのような表情を浮かべて、そんな私の顔をのぞき込んできた。


「ち、ちがうよ……っ」

「あははっ、冗談!」


あまりの至近距離に、バッと顔を隠すと、秋くんもすぐそう言って笑った。

ずるい。

しょんぼりするところも、いたずらに笑うところも……今こうして私に向けられているのが嬉しい。


……こんな状況、ずるすぎる。


「あのさ、一花ちゃん」

「?」


秋くんに名前を呼ばれ、下を向いていた顔をそっと上げると、優しく微笑んでいる彼と目が合った。


「昨日はありがとう」

「っ!!」


一瞬忘れていたあの悪夢のような時間を、秋くんの一言で思い出してまたもや体が硬直する。


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