嘘つきシンデレラ
駿がさとみを抱きしめた。
先に、勝手に身体が動いていた。
あんまりにも、さとみがけなげだから。
あんまりにも、
けなげに
兄貴を思っているから。
たまらなくなって。
そんな、泣きそうな顔で笑うなよ
びっくりして、動けないさとみ。
「あ、あの。駿さん?」
「兄貴なんて、やめときなよ。」
「さとみちゃんにそんな顔させる、
兄貴なんてやめろよ」
さとみを強い力で抱きしめる、駿の腕。
「さとみちゃんが
そんな風にけなげに思ったって、
兄貴には届かないよ」
「兄貴は、葛西を継ぐから。
そのためにはなんだって
切り捨てる。
さとみちゃん。
きっと、いっぱい泣かされるよ」
「おれにしときなよ」
駿が、頼むようにつぶやいた。
駿の肩越しの視界をみつめたまま、
抱きしめられているさとみ。
さとみの手がゆっくり上がる。
駿の背中にそっと、手が触れた。
その手のひらから、
シャツ越しに、
さとみの熱が伝わる。
キュ。
さとみの腕が、駿の背中を抱きしめた。
え?
駿の心臓が、音をたてる。
さとみが、ひとり言のようにつぶやいた。
「つらいですよね」
さとみの手が、
駿の背中をポンポンと
優しくたたく。
何?
俺なぐさめられてない?
「なに?」
「何、言ってんの?」
思わず、腕をほどいて
さとみの肩を持って、駿がさとみに問う。
「だって、
弟さんが好きなのは
社長ですよね」
さとみの、駿を見上げる目はまっすぐで
そのまっすぐな視線に
先に駿が目をそらした。
唇をかみしめた駿は、
そのままさとみの肩を、押した。