嘘つきシンデレラ



サッ。




さとみの前に風が通り。




急に目の前の空気が軽くなった。




駿の




体の重みが消えている。




え?




さとみが目を開ける。




駿が、後ろから襟首をつかまれて、




ソファから引きずり下ろされていた。




呆然としたさとみがソファから、




起き上がって




見上げる先に、




社長がいた。




社長から、怒りのオーラが見えそうなほど、




頬骨のあたりが少し



赤くそまった社長の顔。




社長の目が、




さとみのはだけたカットソーの胸元や




紅潮した肌に気づく。




「何考えてんだ」




言うなり、




社長が、立ち上がりかけていた




駿の顔面を殴った。




「キャッ」




驚いたさとみの口から、悲鳴が出る。




殴られた駿が、なんとか立ち上がりながら言った。




「まさか、兄貴がここに来るなんてな」




皮肉げに、駿が笑う。




「ずっと毛嫌いして、




近寄りもしなかったくせに」




「この子のためなら来るんだな」 



駿が、出血した唇の端を押さえて、




挑むような視線を向ける。



「何言ってるんだ。



お前、自分が何したかわかっているのか」



怒りの収まらない、



社長が駿の首元のシャツを、両手でつかむ。




「殴れよ」



眼のふちを赤くして、駿が言う。




駿の表情に、戸惑ったような社長。




「早く殴れよ!」




駿が叫んだ。




「駿、お前」




眉間に眉が寄って




「兄貴なんて…」




駿の表情は、まるで




痛みをこらえた子供のようで




「離せよ!」




駿が社長の手を振りほどいて、




出ていく。




扉の閉まる大きな音が響いた。


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