嘘つきシンデレラ
太陽で光る水面。
視界には、兄貴の首にまわした自分の手。
「駿」
「駿」
「大丈夫か」
俺に笑いかける兄貴の笑顔。
どうして忘れていたんだろう。
俺たちは何でも持っているのに、
何も持っていないような
不自由な籠の中で生きていて。
満たされない思いが埋まらなくて、
いつもしんどかった。
『優は跡取りなんだから、しっかりしなさい』
『優は葛西を継ぐんだから、もっと完璧でないと』
兄貴にふりかかる重圧の言葉。
兄貴はいつも
俺とは違って、自由なんてなくて
ずっと重荷を背負わされて、
なのに、俺に優しかったから。
冷たい家の中で兄貴だけが、
おれの砦だった。
だから
俺を置いて
出て行ってしまったままの兄貴が嫌いで、
憎くて、好きだったんだ。