嘘つきシンデレラ
「ち、ちがうんですよ、あれは」
慌てて否定するさとみに
おじいさんが笑う。
「ふ。ええじゃないの
あの子…あのひとに、
あんたみたいな子がそばにいてくれたら。
安心だよ」
おじいさん、社長の知りあい?
おじいさんは正面を向いたまま、
独り言のように話し出した。
「あの子はいつもね、
大人しかいない静かな家で、一人でおった。」
思い出すように、
目をつぶっているおじいさん。
さとみはそのおじいさんの横顔を見つめている。
「祝い事なんかがあるとね。
そりゃあ、あのうちはね、
たくさんの人がいて、豪華でね。
財界人や芸能人もいたりしてね。
映画の中の世界のように、キラキラしておったよ。」
さとみの頭にも、その光景が浮かぶ。
あの広くて、豪華で、静かな
ぬくもりのないお屋敷。
「でもね、
誰がいようと、誰もいなくても
あの子はね、いつも
一人でおった。」
目線の先の噴水で、手をつないで歩く親子連れ。
ベビーカーから、お母さんを見上げ、笑う赤ちゃん。
そこは、愛情というバリアの中。
「ある時ね、気まぐれでちょうど持ってた、
なんてことない駄菓子をあげたんじゃよ。
こんなちっちゃな、ほんとただの駄菓子」
おじいさんは、指でその大きさを形作って
さとみにみせる。
「そしたらあの子それを、無言で受け取ってね。
その時は、こりゃ、
ありがとうも言えない子なんだって思ったんだよ。
でもね、顔をみるとね、
うつむいて隠そうとしているんじゃが、
口の端が上がっておるんだよ。」
おじいさんは少し笑みを浮かべて、話続ける。
「それ以来、行くときは、あの子にいつも
プレゼントを持って行った。
駄菓子とか、小さいおもちゃとか。
なんてことないものばかりじゃったがね。
その頃には、だいぶ素直に
笑ってくれるようになっていてね。
あの子はいつも。
ほんとに、嬉しそうな顔するんじゃよ。
今でも忘れんよ。
あの、はにかんだような笑顔を…
あんなもの、買おうと思えば
なんぼでも買えただろうに…」
「でも、それしかしてやれんでね。」
おじいさんが、悲しそうに微笑んで
「ただの取引先のわしは、
あんなもの一個で嬉しそうにするあの子に、
それしかしてやれんかった」
そうつぶやくおじいさん。