嘘つきシンデレラ
さとみには、想像することしかできないけれど。
脳裏に、幼い社長の後ろ姿が浮かぶ。
まだ、華奢で小さな男の子の後ろ姿が。
あの広い広い家の中にひとり、立っている男の子。
そこへ行って社長を抱きしめたい。
息が詰まるくらい抱きしめてあげたい。
叶えることのできない願いに、
やるせない気持ちで胸が苦しい。
ゆっくり語るおじいさんの声。
「誰かがあの子に愛を教えてくれたら、
そんな嬉しいことはない。
あの子はきっと、
人を愛することは苦手だろうよ。
だって、知らないのだから。
愛情を求めることすら禁止されているような、
普通の感情を否定する
異質な環境で育っておるからね。
優しさは弱さだと…」
いつも自分を律しているよな、
社長のピンと伸びた背中。
「だから、きっと苦しんでおるよ。
ならなければならない葛西の自分と、
本当の自分との隔たりに。
苦しかろう…。
本当は優しい子なんじゃよ。
切り捨てているようで、
救っているときもある。
あの子が切り捨ててくれなければ、わしは…
クビをくくるとこまで行っておったじゃろう」