嘘つきシンデレラ
ガラスの靴は見つからない
右、左と軽快にしっぽを振って、
太郎がはずむように歩く。
店を出たら、道沿いに沿って海を目指す。
海辺の市場の横を通って、
波止場まで行く。
いつもの散歩コース。
市場まで行くと、
太郎がクンクン匂いをかいでせわしなくなる。
ここで、いつも漁師のおじちゃんたちから、
何かしらの練り物を貰うのが
太郎のルーチンだからだ。
今日は好物のハモの練り物をもらって、
ご満悦の太郎。
アイ字型に海に突き出したような形の波止場。
その波止場の真ん中あたりで少し、休憩する。
むせ返る潮の香おり。
遠くで聴こえるウミネコの鳴く声。
ここから見上げる空は秋晴れが激しくて、
その光が反射する海に目をつぶるさとみ。
目をつむっていても光を感じる視界。
のどかで、少し冷たい風が気持ちよくて。
ワンワン。
まだ大人になりきれていない太郎の
少し高い鳴き声が、さとみの物思いをやぶった。
波止場の陸地側に、
背の高い男のひと。
社長…。