嘘つきシンデレラ



あのとき




お前を探して




あのファミレスで、




お前を見つけた夜




いかりで目の前の視界がぐらついた。




今となっては




あの時の言葉は




さとみに向けていたのか

 



幼い自分に向けた言葉だったのかも





わからないくらいで。





俺はただ、自分の感情が手に負えなくて。





さとみに投げつけられていた言葉。




悪意に耐えているさとみの小さな背中。





いるはずのない不条理な世界に




お前が生きている現実に。






それなのに、




おまえはまだ、




あいつらを庇おうとするから




わからせたくなって。




思い知らせたくなって。




そこに



お前が心を砕くほどの




価値のあるものは




ないんだって





そこには



…愛なんてないんだって。




だけど、




お前は




誰よりも




愛されるはずの人間なんだって。




ほんとに伝えたかった言葉は口にも出せずに




何が甘えを知らないだ。




俺は28にもなって




大事なひとができたことにも気づけない。




ただのこどもで。




俺みたいなやつのそばに。



いたらいけない。



俺みたいなやつが求めたらいけない。 




おれのそばにいたら、




俺はお前を汚すから。




逃がしてやりたかった。




そう思った。




だけど、きっとそんなのはいいわけで、




本当は、ただ怖かったんだ。




自分よりも何よりも大事なひとができることが。




何も信じず、




何も持たず、




何も愛さず





生きていくはずだった俺が





さとみといると、




葛西ではいれなくなることが





わかっていたから。




さとみを信じて




愛することが、




ただこわかった。




自分にさとみを愛していると




認めることが、




こわかった。




だから、




最低な俺は




自分のかわりにお前を傷つけて、




自分を守ったんだ。
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