嘘つきシンデレラ
社長は、知らないでしょ?
社長のふいの笑顔や、
こんな無防備な寝顔に
私の胸がこんなにも、おかしくなっちゃってるって
きっと、
誰かの代わりに
抱きしめられているだけなのに。
社長の腕の中で、
私の鼓動で
起きちゃうんじゃないかと
思うくらい、
ドキドキして。
社長には、
こんな風に、大切そうに
抱きしめるひとが
どこかにいるの?
誰かを
こんな風に、
大切に想っているの?
嬉しいのか苦しいのか
わからない、甘酸っぱい胸の痛みがあって
わけもなく
泣きたくなるような
こんな気持ち。
社長も知っているの?
当の社長は
うなされていたのがうそのように
気持ちよさそうに眠っている。
まあ、いいや
私も少しでも、役にたてたなら。
なんてね。
さとみは社長の寝顔を見つめて
社長がこんなに近くにいる。
社長の腕の中にいるなんて
こんな特権いいのかな。
社長のゴツゴツした手の感触
動かない腕をちょっとだけ
もぞもぞしてみて
思い切って
さとみも社長のお腹らへん、触れてみる。
なんか、恥ずかしい。
でも…
嬉しいような…変な感じ。
触れる腹部は筋肉で固くって
こんなにも私と
お腹も、腕も、鎖骨のとこも
何もかも違って、男のひとで…。
もっと、触れてみたくなる。
…やだ、私なんかやらしい?
ひゃ。
社長が寝がえりをうつかのような気安さで
もっと、さとみを引き寄せた。
さとみの頬が社長の固い胸に触れて
うー。
こんなのやばいよ。
早くなんとかしなくちゃ
…でも、
もう少しだけ。
もう少しだけ、
力強い鼓動と心地よい体温に包まれて
社長の寝顔を見ていていいかな。
きっと今だけだから。
こんな時間、今だけだから。
もう少しだけ…。