涙色パレット
「昔の絵画や音楽にはタイトルがなくて、今あるタイトルはその画家が亡くなったあとにつけられたりしたんだ。そのせいで、間違ったタイトルがつけられたものも多々あるんだよ」

「そうなんですね」

教室はもう薄暗くなっている。さっきまで教室を照らしていた夕焼けは萌に別れを告げた。

「電気、つけるよ」

「はい、ありがとうございます」

純一が電気をつけ、教室が人工の光で照らされる。萌は手元にあるアイリスの絵を見つめた。あとはパレットを洗うだけ。

「水彩画か。綺麗に描けている」

萌の絵を見て、純一は微笑む。純一と話すようになってから、萌はその言葉をかけられることが多くなった。それがとても嬉しくて、胸が驚くほど温かくなる。

「……ありがとうございます」

微笑み、萌はパレットを洗うために廊下に出る。校舎にいるのはもう二人だけかのように、廊下は静まり返っていた。耳をすましても誰かの話し声すら聞こえてこない。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop