涙色パレット
この静かすぎて寂しくなるような空間に、萌は何も思わず流しへと歩いていく。蛇口を捻ると水が流れ、パレットの上の絵の具はなくなっていく。

こんな時間を過ごすのは、初めてではない。萌にとってはこの時間が当たり前なのだ。

「私にはお似合いかな……」

パレットを洗いながら、萌は呟く。その呟きさえ水の流れていく音でかき消された。長い一人ぼっちの時間。

「萌」

教室から純一が出てくる。萌は慌てて振り向いた。

「はい」

「萌は、美術館に行ったことはある?」

純一は真面目な顔で訊ねる。萌は首を横に振った。家族は美術には興味がなかったし、一緒に行く友達もいない。

「なら、僕と一緒に行かないか?」

「えっ……」

予想もしていなかった答えに、萌は驚く。しかし、純一は冗談でこんなことを言う人ではない。

「……できれば、先生と生徒としてじゃなくて、純一と萌として行ってほしい」

「先生、それって……」
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