あまい・甘い・あま~い彼が見つからなくて
私服に着替えて私は病院をあとにした。

救命に勤務しはじめてから、通勤に時間がかかるために、家を出て病院のそばで一人暮らしを始めた。

一人暮らしを心配した両親と大翔は、大翔と同じマンションに住むよう私に言ったが、大翔に彼女ができたときに、二人が一緒にいるところなんて目にしたくなくて、あえて私は大翔とは反対の方角に部屋を借りた。

K 市消防署の前をものすごく遠回りして、自転車でゆっくり通過したが、救急車も消防車も出払っていて、消防署はひとけがなく静まり返っていた。

ホッとしたような残念なような複雑な気持ちで私はその場を後にした。

「何やってんるんだろ、私…」

苦笑いしながらマンションに帰宅するとそのままベッドに倒れこんだ。

くたくただった。

救命は女の私にはかなりきつい職場だ。

休みの日は体力作りに近所を走り、最近駅前のジムに通い出した。

今日ジムに行く体力はもはやゼロだ。

「…明日行こう…」

一瞬にして私は深い眠りに落ちていき、今日の出来事を考えることをやめていた。
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