あまい・甘い・あま~い彼が見つからなくて
「尾作、おまえさぁ勤務中に女口説くなよな」

消防署に帰る救急車に乗り込んですぐ、助手席に座った先輩が俺の頭をかなりの力で叩いた。

「すみません、でもやっと会えたんですよ、高嶺の華子ちゃんに」

確かに先輩に咎められたように、重症患者を搬送した救命センターで、これから治療にあたろうとしている医師に携帯番号のメモを渡した俺の行動は軽卒としか言えなかった。

それでも、この偶然なチャンスを、俺は今度こそ逃すわけにはいかなかった。

「高嶺の華子ちゃんねぇ。
確かにめちゃくちゃ可愛い医者だったな。
お前がずっと彼女を作らない理由は華子ちゃんのせいか」

説教をしていた先輩の顔が揺るむ。

車を発進させながら、

「みんなには内緒ですよ」

と苦笑いしたが先輩が黙っているはずもなく、署に戻るとみんなから根掘り葉掘り聞かれてからかわれ続けた。
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