センチメンタル・ファンファーレ
◇
自宅に着いて昨日の残りのカレーを食べ、シャワーを浴びても胃の奥にストレスを感じる。
対局中に食べるおやつを買っただけなのに、関わってしまうと結果が気になるものだ。
無理せずとも明日になればわかるのだから、とテレビをつけたけれど、賑やかなバラエティー番組は目の表面を滑っていくだけで、まったく頭に入ってこなかった。
「もういいや。コンビニ行っちゃおう!」
万年ダイエット。
万年失敗。
それでもメンタルの安定には代えられないものがある。
メイクも落としたのでパーカーのフードをかぶって、サンダルを引っ掛けて家を出た。
さっと行って、さっと買って、さっと帰って来る仕様だ。
「弥哉ちゃん、何してるの?」
この人目を忍ぶ姿で、「話し掛けるな」と気配で威嚇しているのに、突然現れた川奈さんはフードの奥を覗き込んだ。
モタモタ悩んでしまったのが運の尽き。
俯いてフードを引っ張り、すっぴんを隠す。
「こっち見ないで!」
「なんで?」
「……すっぴんだから」
「なーんだ、そんなことか」
フードを覗き込むのをやめて、冷蔵ケースへと視線を移す。
「何を悩んでたの?」
私は『新商品』という赤い札の下を指差す。
「この『二色のミニロールケーキ』っていうのが気になってて」
「うん、おいしそうだね」
「チョコレート&ミントの方はすごく食べたいんだけど、一緒に入ってるストロベリー&バターはあんまり好きじゃなくて」
「千波さんにあげたら?」
「今夜はお泊まり」
「いやーん。千波さんったら、やらしー」
カラッと笑う川奈さんはくたびれたスーツ姿だったけれど、とても元気だった。
迷惑にも長居していた私を押し退け、『二色のミニロールケーキ』を手に取る。
「ストロベリー&バターは俺が食べるよ」
「うーーーん、でも、」
「今朝のお礼。おかげで勝てたから」
「『お礼』って、もともとドーナツがお礼なのに」
「まあまあ、細かいことはいいじゃない。一緒に食べよ」
「食べるってどこで?」