センチメンタル・ファンファーレ
△6手 スウィート&ドライ
『十九時。東通りのプラトで』
白取さんからのメッセージを見て、本来であれば「イケメンとデートだ!」とスキップのひとつくらいするべきところなのに、「よく知らない人と食事かあ……」と2cmくらい地面に沈む気分になった。
お金を支払うとは言え妙なことをお願いしたのは私で、お互いほとんど何も知らないのだから、口裏合わせの話し合いを断れるはずがない。
「川奈さんなら、もっと気楽だったのに」
予想外の頑なさを示されて戸惑った。
同時に、引き受けてくれればこんなことにならなかったのに全部アイツのせいだ、と理不尽な怒りさえ湧いてきた。
プラトは小さなビルの地下にあるスペインバルで、店内の壁に隙間なく貼られたワインのコルクやラベルと、抑えられた照明によって、時代も場所も現代日本ではないような空間を演出している。
オレンジ色の照明は時折明滅しているかのように不安定で、「ここではスマホを見たり仕事の話なんかさせねーぞ」という強引さでムードを強要してくる。
「えー、デートにその格好ですか?」
シンプルなジャケットにパンツスタイルという“仕事帰り”そのままの私を見て、白取さんは遠慮のない不満を漏らした。
「デートじゃなくて打ち合わせですよね?」
「打ち合わせでこの店指定しないですよ。薄暗いし」
「……………」
改めて店内を見渡すと、隅の方なんか魔物でも棲んでいそうなほど暗い。
お客さんも女性同士か男女ばかりで、会話するときの顔の距離が近い。
「白取さんはデートファッションなんですか?」
「幅広く嫌われない格好で来ました」
ネイビーのサマージャケットに白いカットソー、黒のスキニーという爽やか且つスッキリとしたコーディネートは、本人が言うように好感度が高い。
「なんかズルい。そういうシンプルファッションって、持って生まれた素材で着こなすやつですよね? 川奈さんがそのカットソー着たら、下着と間違われそう」
「武器は惜しみなく使っていく主義なので」