センチメンタル・ファンファーレ
たまに恋人ごっこを仕掛けてくることとわずかに緊張すること以外は、縁くんとの食事は楽しかった。
私が先輩の妹だからなのか、それとも女性扱いなのか、常にさりげない気遣いを示してくれる。
それはかなり手慣れていて、経験値の差を思い知らされた。
それでも自然体で遠慮のない態度だから、私も少しずつ肩の力が抜けて、結局たいした打ち合わせもせず、ただの食事で終わってしまった。
お会計を済ませて外に出ると、ぬるい湿った夜風が酔った肌の上を抜けていく。
うーーーん、と伸びをした私に縁くんが手を差し出す。
「手、繋ごう」
私は思わず大きく一歩後ずさった。
「えええええ!」
「この程度のスキンシップは慣れておかないと」
あくまで色っぽいお誘いではないということなので、一歩戻って手を重ねたら、きゅっと握られた。
「ちょっと待って! 汗が……動揺して手に汗かいたから恥ずかしい!」
「“動揺”じゃなくて、もっと俺のこと意識してって」
夏の夜の中、歓楽街のネオンが縁くんの笑った顔を彩っていた。
“彼氏”と手を繋いで見上げる夜空はアルコールのせいなのか、速い鼓動のせいなのか、ぼんやり霞んで見える。
深夜まで明るいここからは、星なんてひとつも見えない。
その代わり、空をバックに素敵な男性が輝くように微笑みかけていた。