センチメンタル・ファンファーレ
▲9手 カルテットディナー
焼きそばは三食入りだったり、ラーメンは二食入りだったり、ヨーグルトは四個パックだったり。
どういう基準で決めているんだろう?
「ちなちゃん、やっぱり多いよ」
タケノコを水洗いするちなちゃんの隣で、私は豚コマ肉を細切りにする。
「大丈夫、大丈夫。今夜三個ずつ食べて、明日の朝二個ずつ食べればいいんだから」
「私、三個も食べられない。せいぜい二個」
「じゃあ、明日の朝と昼も食べたらいいじゃない」
「そんなに揚げ物続けたくないよ」
「文句多いな」
春巻きの皮は、なぜ十枚でしか売ってないのか。
「チーズを巻いてもおいしく召し上がれます」「チョコレート入れるとおいしいよ」など、活用法は様々紹介されているけれど、揚げ物であることに変わりはない。
「お兄ちゃん呼ぼう。ちなちゃん四個、お兄ちゃん四個、私二個」
「望に『来るならビール持参』って言っておいて」
お兄ちゃんに『春巻き余りそうだから食べに来て。ビールとアイスクリーム持参』と送信。
「『わかった』って。お兄ちゃん、ご飯食べるかな?」
炊飯器の中を覗いて、あと二合炊くことにした。
「うーん、でも望も来るなら、春巻きだけじゃ足りないよね」
「え! おかず春巻きだけのつもりだったの?」
「だって春巻きって、包む時間かかるじゃない」
「もっと何か作ろうよ!」
来春この姉を嫁に貰う吉岡さんには、「『今日の夕食は春巻き』って言われたら、コンビニで何か買って帰った方がいいよ」とアドバイスしておこう。
「一汁一菜で十分。我が家は粗食をモットーとしております」
「そういえば、前にちなちゃんから『ごはん一品だけどいい?』って連絡きて『いいよ』って返事したら、炊き込みご飯一品だけだったことあったね」
「だって炊き込みご飯って手間かかるじゃない。カレーと同じだよ」
「カレーとは違うよ」
「ねえねえ、『わたし、カレーは三日かけて作るんですぅ』っていう女って、なんでイラッとするんだろうね?」
「単にちなちゃんの言い方の問題じゃないの?」
春巻きがカラッと揚がり、エアコンを入れていても油と汗でベタベタになった頃、チャイムが鳴った。
お兄ちゃんに違いないからインターホンは使わず玄関に向かうと、ドアの向こうでなんだか揉み合う声がする。
スコープから覗いてみたら、そこにいたのはお兄ちゃんと、あとひとり。
「あ、弥哉ちゃん!」
5cmだけ開けたドアの隙間で、川奈さんと目が合った。
「さっさと自分の家に帰れよ!」
「深瀬さんの家じゃないでしょ」
「俺は呼ばれたの。お前は呼ばれてないだろ」
「だったら今聞いてみようよ。弥哉ちゃん、俺も入れて」
「ダメだ! 帰れ!」
お兄ちゃんに押しやられながら、川奈さんは私にビニール袋を突きつける。
「弥哉ちゃん。はい、メロン」
「メロン!」
10cmまで開いたドアの隙間に、川奈さんはすかさずスニーカーを入れて来た。