センチメンタル・ファンファーレ
お盆に帰省し、祖父母のお墓参りをした際、久しぶりに従姉妹の真菜花ちゃんに会った。
『みんなでキャンプ行かない? 有理が行きたがってるのよ』
真菜花ちゃんは結婚していて、五歳になる有理くんがいる。
幼稚園の友達が夏休みにキャンプに行ったらしく、有理くんはキャンプに憧れているらしい。
真菜花ちゃんの妹の沙里ちゃんはまだ高校生で、友達とコテージで女子会をしたいのだそうだ。
それに、私たち三人も参加する流れになった。
「私も譲を誘ったから、弥哉も友達誘ったら? それで望に紹介してあげてよ」
「やだよ。お兄ちゃん性格悪いもん。それに棋士なんて不安定でおすすめできない」
「地味なところさえ目をつぶれば、悪くないよ、棋士って。スポーツ選手と違って食事管理いらないし、ケガで仕事を失う心配もないし。この前結婚式で友達に会ったんでしょ。誰かいい子いない?」
明依と速人の結婚パーティーは、乾杯のシャンパンを一気飲みし、酔って絡んだ苦い思い出しかない。
『いい加減にして! 明依がどれほど速人を素敵だと思ってるか知らないけど、私は枝毛の枝毛のさらに枝毛の先ほども速人に魅力感じてないんだから!』
「件の恋人とは別れた」と告げると、明依は表情を曇らせ、
『ごめん、弥哉』
とまた話を蒸し返そうとした。
さすがに苛立ち、髪の毛先を突きつけてそう言ったのだ。
誰かがボソッと「ひでぇ……」とつぶやいた。
『こんな真面目しか取り柄がないような顔して二股かけてたやつ、惜しくもなんともない! 速人なんかより、弁髪に失敗して、外を歩くたびに職務質問されるようなアホ男の方がよっぽどマシだよ!』
泰宏に救われる日が来るなんて、思ってもみなかった。
「別れた理由が弁髪」は相当なインパクトだったらしく、哀れみを通り越して爆笑された。
新郎新婦への暴言も、自暴自棄ゆえのことと流され、パーティーは終始和やかに行われた。
泥酔寸前まで酔った私は、みんなの近況がどうだったのかなんて覚えていない。
「いい子がいたとしても、尚更誘いたくない」
混沌としていくキャンプメンバーに、引きつった顔でパスタをフォークに絡める。
今朝、川奈さんは何も言ってなかったのに。
「……もう、何の集まりなんだか」
「いいじゃない。一期一会感あって楽しいよ」
『鯖!』
『ピンポンピンポン。正解!!』
「あ、ねえねえ、『私、サバサバしてるからぁ』っていう女って、何でイラッとするんだろうね?」
イントロクイズの派手な音楽を背景に、川奈さんは勝利した。
落ち着いた態度ながら、口角がわずかに上がっている。
『この角打ち、良くなかったですかねえ』
と、肩を落とす対戦相手に、難しい表情を作って応じていた。
『歩打たれて、取って、同飛車成りがひどいなって思ってて』
『あー、そうですよね』
『仕掛けのところからやりましょうか』
『えーっと、『主よ、人と望みと喜びと』!』
『……ブブーッ! 惜しいっ!』
頷きながら駒を動かす川奈さんを見て、タブレットの電源を落とした。
『みんなでキャンプ行かない? 有理が行きたがってるのよ』
真菜花ちゃんは結婚していて、五歳になる有理くんがいる。
幼稚園の友達が夏休みにキャンプに行ったらしく、有理くんはキャンプに憧れているらしい。
真菜花ちゃんの妹の沙里ちゃんはまだ高校生で、友達とコテージで女子会をしたいのだそうだ。
それに、私たち三人も参加する流れになった。
「私も譲を誘ったから、弥哉も友達誘ったら? それで望に紹介してあげてよ」
「やだよ。お兄ちゃん性格悪いもん。それに棋士なんて不安定でおすすめできない」
「地味なところさえ目をつぶれば、悪くないよ、棋士って。スポーツ選手と違って食事管理いらないし、ケガで仕事を失う心配もないし。この前結婚式で友達に会ったんでしょ。誰かいい子いない?」
明依と速人の結婚パーティーは、乾杯のシャンパンを一気飲みし、酔って絡んだ苦い思い出しかない。
『いい加減にして! 明依がどれほど速人を素敵だと思ってるか知らないけど、私は枝毛の枝毛のさらに枝毛の先ほども速人に魅力感じてないんだから!』
「件の恋人とは別れた」と告げると、明依は表情を曇らせ、
『ごめん、弥哉』
とまた話を蒸し返そうとした。
さすがに苛立ち、髪の毛先を突きつけてそう言ったのだ。
誰かがボソッと「ひでぇ……」とつぶやいた。
『こんな真面目しか取り柄がないような顔して二股かけてたやつ、惜しくもなんともない! 速人なんかより、弁髪に失敗して、外を歩くたびに職務質問されるようなアホ男の方がよっぽどマシだよ!』
泰宏に救われる日が来るなんて、思ってもみなかった。
「別れた理由が弁髪」は相当なインパクトだったらしく、哀れみを通り越して爆笑された。
新郎新婦への暴言も、自暴自棄ゆえのことと流され、パーティーは終始和やかに行われた。
泥酔寸前まで酔った私は、みんなの近況がどうだったのかなんて覚えていない。
「いい子がいたとしても、尚更誘いたくない」
混沌としていくキャンプメンバーに、引きつった顔でパスタをフォークに絡める。
今朝、川奈さんは何も言ってなかったのに。
「……もう、何の集まりなんだか」
「いいじゃない。一期一会感あって楽しいよ」
『鯖!』
『ピンポンピンポン。正解!!』
「あ、ねえねえ、『私、サバサバしてるからぁ』っていう女って、何でイラッとするんだろうね?」
イントロクイズの派手な音楽を背景に、川奈さんは勝利した。
落ち着いた態度ながら、口角がわずかに上がっている。
『この角打ち、良くなかったですかねえ』
と、肩を落とす対戦相手に、難しい表情を作って応じていた。
『歩打たれて、取って、同飛車成りがひどいなって思ってて』
『あー、そうですよね』
『仕掛けのところからやりましょうか』
『えーっと、『主よ、人と望みと喜びと』!』
『……ブブーッ! 惜しいっ!』
頷きながら駒を動かす川奈さんを見て、タブレットの電源を落とした。