センチメンタル・ファンファーレ
△12手 クレッシェンド、クレッシェンド
キャンプをするのに、十月上旬は気候として悪くないけれど、結構な賭けだと思う。
「バーベキュー無理じゃない?」
秋の天気は変わりやすい。
おだやかに晴れたかと思えば、次の日は雨だったり、突然台風がやってきたりする。
そして今、どんよりとした厚い雲が見える車の窓には、細い雨の筋が走っていた。
「このくらい大丈夫! 先週の台風に当たらなくて上出来なくらいじゃない」
助手席のちなちゃんは機嫌良く、バラードを飛ばしてノリのいい曲を選んだ。
吉岡さんの運転するレンタカーは、順調に山道を進んで行く。
ペーパードライバーの私やちなちゃんと違って、社用車を運転する機会も多いということで、余裕の鼻歌まで聞こえてくる。
どうやらふたりの思い出の曲らしく、ふんわり甘いムードが漂う。
そんな助手席と運転席の間に、川奈さんは無遠慮に顔を差し挟んだ。
「コテージにホットプレートもあるんですよね? 俺、別に焼き肉でもいいですよ」
ふたりの返答より先に、お兄ちゃんが首根っこを掴んでシートに戻した。
「経験も調理技術も免許もないくせに、よく図々しく来られたな」
「それは深瀬さんも一緒でしょ」
「俺は家族だ」
「俺だってひとつ屋根の下に住んでるよ」
後部座席では経験も調理技術も免許もないふたりが、揉めたり将棋の話をしたりで騒がしい。
「今日って、結局何人来るの?」
真ん中に座るお兄ちゃんを押し退けて、川奈さんが顔を出す。
私は参加者リストを表示したスマホのディスプレイを突きつけた。
「私たち五人と、従姉妹の真菜花ちゃん、沙里ちゃんの姉妹。真菜花ちゃんの旦那さんの祐太郎さんと息子の有理君。同僚の女の子。沙里ちゃんの友達が三人。あと、小多田七段一家が四人……合計で大人十人、子ども三人、女子高生四人、かな」
両手の指を使わないと、人数さえ把握できない。
私の友達まで誘わなくてよかったと思う。
「女子高生と何話したらいいんだ?」
お兄ちゃんが恐怖に駆られたような声でつぶやいた。
「elmo囲いの話には興味ないと思うよ」
私が冷たく牽制し、ちなちゃんもひらひらと手を振る。
「女子高生なんてほっときゃいいのよ。四人で完結してるんだから。むしろ、おっさんが話し掛けたら嫌われるよ」
女子高生が対象となると“おっさん”という単語にも反論できず、お兄ちゃんは黙りこんだ。
その肩に、川奈さんはポンと手を置く。
「でも小多田さん誘ったのは深瀬さんのお手柄。おかげで安心して参加できるもん」
「お前、それで慰めてるつもり?」
「まさか。事実を言ったまで。深瀬さんはいなくていいけど、小多田さんにはいて欲し……いてっ!」
「お前が一番いらねーよ!」
「ちょっと! 狭いんだから男ふたりで暴れないでよ!」