センチメンタル・ファンファーレ

自分の泊まるコテージに帰ってお風呂の道具を取って戻ると、女子高生と子どもたちも食事を終えて、成人男子だけがまだ騒いでいる。

「うわー、迷う~。どうしよ」

「放置したら?」

「放置はない。取る! 気合いで! あれ? マズイかな……」

「じゃあ俺はこっち」

「ウソ、そこ空いてた? えー、小多田さん視野広い。お酒足りないんじゃないですか? その日本酒一気飲みして」

「川奈うるせーな」

いい年して、しかも三人はプロの棋士なのに、小学校の教室となんら変わらない。
その姿を横目でうかがいつつ、側を通過しようとした。
そのとき、

「よーし、ここで秘策! 弥哉ちゃーーーん!」

突然川奈さんから呼ばれた。

「何?」

「深瀬さんたちの次の一手指して。あ、三人とも教えちゃダメ」

「はあ? 私が?」

「おい、弥哉。ちゃんと考えろよ」

なんでこんなことに巻き込まれたのか。
ちゃんと考えるも何も、基本的なルールくらいしかわからないのだから考えようがない。
小多田さんもケラケラ笑うばかりで助けてくれなかった。
仕方ないので、無難な選択として、ぶつかっている歩を銀で取る。

「ああ、弥哉バカ!」

「よおーーーーし、きたきた! いけー! ドォォォン!!」

川奈さんが飛車を突撃させて、バァンとひっくり返した。
私が銀を動かしたために、道が通ってしまったらしい。

「何やってんだよ、弥哉ーーー!」

「だって、わかんなかったんだもん!」

「いやいや、弥哉ちゃん、最善手!」

親指を立てる川奈さんのいい笑顔に、バスタオルを叩きつけた。

「ブッ……」

「やっぱり将棋きらい! もうお風呂行く!」



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