センチメンタル・ファンファーレ
「まあとにかく、『理由は何でもいいから何かあげたい』ってことね。貢ぐタイプなの?」
「そんなことないと思うけど……そうなのかな。よくわかんない」
プレゼントをもらって私はとても嬉しかったから、同じ気持ちを返したい。
川奈さんが本当に望むものがタイトルであれ、棋力であれ、外見であれ、私にはあげられないから、お金で買えるものに頼るしかなかった。
「ネクタイは無難だよね。余程奇抜じゃなければ、もらって困らないし」
よく見かける青いストライプのネクタイを目の高さまで持ち上げて眺めている。
「でも、無難過ぎて印象に残らない。誰からもらった物なのか忘れる」
言葉通りまったく思い入れのない仕草で、元の位置に戻した。
「さすがに忘れるのは白取さんくらいだと思うけどな」
無難なネクタイであっても、川奈さんは忘れないと思う。
たくさんもらっているであろう白取さんとは違う。
「シャツの方がいいよ。しっかりした白シャツなら長く使えるし」
似たような白いシャツでも、見比べるとかなり違いがある。
襟や袖の形、ボタンの種類、シャドーストライプの入り方、生地。
「あ、かわいい」
袖のボタンが左右で違うシャツは、生地もしっかりしていて品がいい。
「いいね。それ」
白取さんも素直に反応した。
「でもさ、川奈さんの首周りとか袖丈の長さ知ってる?」
「あ…………」
シャツをふわっと畳んで戻していると、別のシャツを自分に当てながら白取さんが言う。
「聞けばいいじゃん」
「無理」
「まだモタモタしてんの?」
責められてばかりですっかりやる気をなくした私は、店を出ることにした。
店員さんの「ありがとうございました」という声と白取さんを置き去りにしたつもりだったのに、長い脚はゆったりと私の後ろを付いてくる。
外に出ると同時に、追い払うつもりで振り向いた。
「じゃあ、ここで失礼します」
「はーい」