センチメンタル・ファンファーレ
「いいの、私は」
流れの中で、私は思ってもいないことを笑顔で言う。
「今一瞬楽しければ、それでいいの」
弱い私、情けない私は、泣き出したい気持ちを押し殺して笑っていた。
何も楽しくないのに、顔が勝手に笑っていた。
「それに、私がボロボロに傷ついたところで、川奈さんには関係ない」
マンションの前で立ち止まり見上げたら、川奈さんもにっこりと笑っていた。
「そうだよね」
「“友達の妹”なんて、結局他人だし」
「他人でも、やけ酒くらい奢ってあげるから、失恋したら遠慮なく言って」
「ありがと」
川奈さんはエレベーターに乗らなかった。
階段の前で「お疲れさま」と帰っていった。
私はのろのろ降りる階数表示を何も考えられないまま待って、どうにか乗り込んだものの、『3』と押すのさえ一瞬忘れた。
脚に力が入らなくて、壁に手をついて身体を支えながらどうにか部屋に入ると、その場にうずくまる。
真っ暗な部屋。
ちなちゃんはまだ帰っていない。
急げ急げ、早く泣き切ってしまえと、自分を急かしながらわんわん泣いた。
ちなちゃんに見られたら、心配させてしまう。
早く全部涙を出してしまわなきゃ。
正直なところ、何が悲しいのかもよくわかっていなかった。
それなのにとにかく涙が止まらず、心の中はどんどん焦る。
なんだか、何もかもがうまくいかない。
心置きなく泣くことさえできない。
早く独り暮らしをしよう、と生まれて初めて思った。