センチメンタル・ファンファーレ
対局は十時開始で、中継はその三十分前に始まった。
川奈さんは青というよりコバルトブルーという名前が似合うような、鮮やかな羽織で現れた。
似合わないわけではないけれど、着慣れていないし、こちらも見慣れていない。
その違和感をちなちゃんは『七五三』と斬り捨てた。
対局中、扇子もハンカチも使わない川奈さんは荷物が少なく、今日は画面の左側に、しわしわになった紙袋だけ持って座った。
食べなくていいと言ったのに、見た目の悪いそれは立派な塗り盆の上に乗って、カメラによく映る位置にある。
「この人強いの?」
お母さんがテレビ画面の市川竜王を直接指差した。
市川竜王の方は和服にも慣れた様子で、青竹色の羽織を品よく着こなしている。
「強いよ。俺たちの世代では一、二を争う」
「川奈くんは?」
「川奈は一段落ちるな」
「望は?」
「…………………」
奨励会時代を支えたくせに、我が母は酷な質問をするものだ。
ちょうど対局が開始する頃、私たちもお寺へ移動した。
さすがにスマホを見るわけにもいかないので、しずかに手を合わせて目を閉じる。
けれど、本来はお祖父ちゃんの冥福を祈るべきところなのに、私は川奈さんのことばかり考えていた。
お祖父ちゃんには何の力もないとわかっていても、ついつい「お祖父ちゃん、お願い!」と祈ってしまう。
お祖父ちゃんも苦笑いしか出ないだろう。
十三回忌ともなれば、法事もどこか機械的に進行していく。
読経のあと卒塔婆を交換して、本家へ戻って会食となった。
襖を取り払って広くした客間に四角や丸のテーブルが三つ置かれ、伯母ちゃんが用意したオードブルや汁物が並ぶ。