愛は惜しみなく与う③


「そういえば、旅行の初日、杏ちゃん何かあったの?」

そう尋ねるのは長谷川
朔は、ウサギを抱っこして俺に背を向けてしゃがみ込んでいる


「え?なにが?」

「新幹線待ってる時さ、なにかもめてなかった?杏ちゃんもあの後少し元気なかったし」

……


「あーーあれか。別になんともないよ。ちょっと色々あっただけ」

朔は苦笑いしている

あの新幹線を待ってる時の、ホームでの出来事のことだろう。

杏が朔を突き飛ばした……あの時のこと。


そう、俺は泉に、スコーピオンのサトルってやつの写真を見せてもらった。

その写真に写る男は、朔と同じ髪の色だった


これが杏を苦しませている男


杏は、少し疲れていて、同じ髪色の朔をみて、それで動揺してしまったんじゃないかな?と泉は言っていた。

朔もその説明を聞いて、納得したような、納得できないような…悔しそうな顔をしていたっけ



「なんか怯えてたみたいだったけど」

心配だわ。そう言う長谷川は、あの時と同じ…嫌な感じのする雰囲気だった


これは…


「いや、俺に怯えてた訳じゃないからいいんだ。別に。気にしてない」


ダメなやつだ


「そっか?まぁ髪色が同じってだけだし、杏ちゃんは朔君のことは信頼してるみたいだし…元気出して」

「おお、さんきゅーな」



なに言ってんだよ

なんで朔も気づかないんだよ
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