愛は惜しみなく与う③
有無を言わさない話し方で、淡々と話を進めていく



「杏をどうするんだ?」

「……どうする?逆に聞きますが、貴方達に何かできますか?この大した設備も整っていない病院に。目覚めた時の杏様の心の乱れを想像して…
貴方達に何かできるんですか?」


何かできることがあるなら、仰ってください。

そう言いながら、志木さんは、杏の頬に手を添えて、愛おしそうに見つめた


その目は愛するものを見る目だった



「杏を連れて行く気か?」


朔?

驚いて黙りこくっていた朔は、志木さんの前に立った



「杏は守るから。しっかり守るから。こいつの2年は自由なんだろ?じゃあ出てくんなよ!!」



そんな朔を、志木さんは鼻で笑った




「守れなかったガキが、イキがるな」



右手を振り上げて、手の甲で朔の頬を叩いた。その勢いで朔はよろけて、杏のベッドに倒れ込む


「お、おい」

朔との間に入ったが、そんな俺たちは無視して、杏に駆け寄る


「よろけるなら、地面に伏せなさい。杏様にぶつかったらどうするつもりですか?」


この人の目には


杏しか写っていない





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