愛は惜しみなく与う③
執事モードのような話し方に戻り、俺と朔を見て笑う


「もう忘れなさい。巻き込んですみませんでした。水瀬の件だけ、後で教えてください」


膝の裏にも手を入れて
軽々と杏を持ち上げた


すると


「ん…」

「あ、杏!」


身をよじる杏は、目を覚ました訳ではないようだったが、少し声を出した


「し、き…す、すず…」


じーっと杏を見つめる志木さんは、少し悲しそうな顔をして部屋を出ようとする


このままだったら絶対


もう


杏に会えない気がする




「待って!」



待ってくれ。



このままじゃダメなんだ。
この人が杏を取り返しに来るのも分かる。
スコーピオンだとは思わなかったとはいえ、おかしいと思った時に行動すべきだった。

杏がもう少し泳がせておけと言っても、その場で問い詰めたらよかった。

判断ミスをしたのは俺だ


けど





「俺は、杏の2年を貰った。初めに約束したんだ。今から卒業するまでの2年を、俺に預けてくれって」


杏と出会って、限られた期限という2年を、貰ったんだよ
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