消えかけの灯火 ー 5日間の運命 ー
「うむ。いいかよく聞け。お前さんはな、明日死ぬ運命にある。」
……は?明日……死ぬ?
「それも、予想しない形でだ。お前さん一人の力では、その運命からは逃れられん。」
婆さんはヒビの入った水晶玉を包み込むようにそっと手を添え、目を瞑りながらそう言う。
……婆さん、いくらお客が来ないからって、そんな不吉なこと言ってまで人を引き付けたいのか?
「だがな、ひとつだけ助かる方法がある。」
すると今度はパッと目を開いて俺を見上げた。
「え、助からないんじゃねーの?」
「ひとつだけじゃ。たったひとつ、唯一助かる方法がある。」
「はぁ……」
「お前さんを助けられる人間が一人だけおる。お前さんにとっての救世主じゃ。」
「救世主……ねぇ……」
「うむ。その救世主を味方につけぃ。ぶっきらぼうなで適当な態度をとるんじゃねぇぞ?その救世主に嫌われちゃあお終いだ。お前さんはちっと人との関わりに問題があるみたいじゃからな。たったひとつの方法なんだ、態度に気をつけぃ。」
「…………」
……なんで、俺が人との関わりに問題があること知ってんだ?
確かに、この婆さんの言う通りだ。
俺は人に対して冷たく、素っ気ない態度を取りがちで人を寄りつけない。
無表情だからか、周りから「何を考えているのかわからない」と言われることも多々ある。
でもそれでいい。
俺には、人と関わる権利なんてないから。
仲の良い友達なんていらない。いてはいけない。
俺みたいな奴と友達になんて、なっちゃいけないんだ。
……もし、この婆さんの言っている事が本当だとしても、俺が明日死んだところで別に問題は無い。
むしろ自分は、居なくなればいい存在だとすら思う。
だって俺は…………
「しょうもねぇこと考えるんじゃあないぞ。」
ビクッ。
俺は自分の考えている事を見透かされた気がして、婆さんの言葉で肩が跳ねた。
婆さんの少し垂れた目が、鋭い目つきへと一瞬で変わっていたのに気づいた俺は、言葉を喉に詰まらせる。
そして婆さんは話を続けた。
「……明日助かっても、また次の日、また次の日と危機は迫りくる。油断なんてしてる暇はねぇ。ただ、その危機も5日間だ。危険な運命を5日間乗り越えれば、お前さんはまた普通の生活に戻れる。……ただし、生き延び続けることができればの話だ。」
なんなんだよその漫画とかアニメとかでよくありそうなデスゲーム的な展開の話。
「……そんなの、もし本当なら無理な挑戦なんじゃ、ねぇの?」
詰まらせていた言葉を押し出し、そう返す俺。
漫画やアニメの世界なら、きっと俺は初めは運良く危機を乗り越えられたとしても、中盤くらいでぽっくり逝くタイプの人間だろう。
超絶な危機を最後まで乗り越えられるのは、自分から戦いに挑みに行くようなかっこいい主人公くらいだ。
「言ったじゃろ、救世主がおるって。その救世主がいれば、死ぬ運命から回避できる確率は格段に上がる。」
「……その“救世主”ってのは、何処にいんだよ?」
「案外近くにおるもんじゃ。」
……やっぱ、うさんくせーなぁ。
本当だとしても、そんな話をどう信じろっていうんだよ……。